2023年6月15日木曜日

寺報6月(裏)―住職雑感―

先月、九州の実家の仏さまに手を合わせに帰りました。

お参り以外には特に用事もないので、卒業以来一度も訪れていない高校の様子でも覗いてみようかと思い立ちました。
大学は県外で、就職は東京、寺の娘と付き合って奈良に住んで今に至るのでかれこれ四十年ぶりです。

ちょっとワクワクしながら西鉄電車に乗って最寄り駅に着くと……なにこれ?
ホームに行くのに線路を歩いて渡ってた小っちゃな駅が特急が停まる巨大な高架駅に!
駅から出るとロータリーとビル!
昔はそんなものなかったし、道も変わっていてどっちへ向かえばいいのやら。
母校への道をスマホに頼るしかないとは再開発恐るべしです。

自宅の周りもそうですが、もう懐かしいと思える故郷の風景は残っていません。
あちらへ足を運ぶのは母が生きている間のことで、それすらなくなればきっと帰ることもなくなります。

でもそれは大事なことかもしれません。
帰るところが〝ここ〟しかなくなったときに、ようやく〝ここに生きる〟ものとしての覚悟が生まれます。
それは、浮世に心の逃げ場を求めていたけれど、そのようなものを失って初めて真に仏法に目覚めるようなものかもしれません。

2023年6月5日月曜日

寺報6月(表)―坊守エッセイ―

今年はとても早い五月中の梅雨入りでしたね。
降り続く雨に濡れて願隨寺境内の紫陽花たちが活き活きしています。

先月、京都国立博物館で開催された「親鸞聖人生誕八五〇年特別展『親鸞 生涯と名宝』」に行ってきました。

音声ガイドはルパン三世の次元大介役で有名な声優・大塚明夫さん。
迷わずレンタルしました。

親鸞聖人の御生涯を描いた「親鸞伝絵」や「親鸞聖人座像」など貴重な見どころはたくさんありましたが、やはりお目当ては親鸞聖人御真筆の国宝『教行信証板東本』です。
お手元本と呼ばれたこの本は聖人が生涯お手元に置かれて加筆修正を繰り返されたそうで、数多の朱筆や塗りつぶし等の推敲跡があり、まるで今、聖人の手が離れて墨が乾いたばかりのような生々しさがありました。

大塚明夫さんの低音の美声を聞きながら、聖人の魂の込もった筆跡を追っていると、耳元で親鸞聖人が語り掛けて下さっているようなそんな不思議な錯覚を覚えたのでした。

今更のことですが、本当に生きて実在された方なのだと親鸞聖人の存在を身近に感じるさせていただいた時間でした。
【by坊守】